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才能や感性がなくても、努力をすればプロにはなれます。ーカメラマン・PROPELLER. 西山榮一

広告のジャンルを中心に、テレビCMのスチールや舞台の宣伝美術、高級時計などの撮影・デザイン・アートディレクションを手がけるPROPELLER.の西山榮一さん。クリエイティブワークに長く携わりながら「センスも才能もそこまでなかった」「カメラマンになりたいという強い志はなかった」と話します。一体どのようにして、自己実現を果たしたのでしょうか。


始まりはデザイン業

ー写真はどちらで学びましたか?

高校を卒業して、沖縄でカメラマンをしていた叔父さんの元で修行しました。田舎のカメラマンは何でもするので、冠婚葬祭から広告、写真週刊誌のグラビアまで撮っていましたね。当時はMacintoshが市販で発売された頃で、新しい可能性を感じて独学で勉強したり、ほかのカメラマンに使い方を教えてもらううちにグラフィックデザイナーという職業があることを知ったんです。面白そうだったから、自分もデザインをしたいなと思って。沖縄から関西に戻り、写植屋、デザイン事務所で働いた後、デザイナーとして独立しました。

ー独立した時はデザイナーだったんですか。

はい。だけど、元々は写真も学んでいたから撮影の現場でカメラマンに指示を出したくなる。そんな風にうるさい小姑みたいだと、煙たがられるじゃないですか。フィルムとデジタルの境目の移り変わりの時期でスケジュールの調整や交渉も大変で、あまりにもタイトな撮影スケジュールの時は自分で撮るようになったんです。気がつけば、いつの間にかカメラマンに戻っていました。独立した時はデザインだけで食べていくつもりでしたけど、今は撮影だけの依頼やデザイン単体の仕事も多いですね。

ー撮影もデザインもできるというのは、会社として強いですね。

ワンストップでサービスを提供できるから、スピードの早さはひとつのウリですね。依頼内容によっては、自分はアートディレクションの役割を担ってチームを作り、よりよい広告作りを実現できるよう努めています。広告のジャンルであれば、大体のことは相談してもらえれば引き受けられます。デザイナーの視点とカメラマンの視点の両方があるので、撮影段階で仕上がりの想定がある程度はできます。「とりあえず後でトリミングできるように、縦長と横長の写真を引き目で撮っておいてください」という撮影指示がよくありますけど、それでは最終的にきれいな画になりにくい。デザインを殺さないために、ゴールのイメージを先に思い描くことは重要です。

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「神戸観光ポスター」南京町編(神戸観光協会/株式会社電通西日本支社)。デザインを西山さんがすべて担当。神戸の魅力を伝える4連ポスターのひとつ。

ーデザインのお仕事で関わっていたのは、どのようなジャンルでしょうか。

広告が多いですね。独立前は姫路のデザイン事務所で働いていて、折り込みチラシやポスター、キャンペーンのパンフレットなどを手がけていました。そのうち神戸の事業所の立ち上げに携わることになり、何のツテもないゼロからのスタートだったものの、お客様との信頼関係を徐々に築いていって。しばらくして勤めていた会社を退社した折に神戸のお客様から「独立してほしい」と声をいただき、ご縁のある神戸を拠点に独立することにしました。必要としてもらえるなら、がんばろうって思えたんです。

ー独立後は順調でしたか?

今は独立して17年目ですが、最初の10年間は目標がたくさんあったので必死でしたね。男性向けファッション誌の『LEON』や新聞の全国紙の全頁広告、誰もが知る企業の仕事を手がけたいなど、目標をひとつずつ達成していきました。大きい小さいに関わらず多くの仕事を積み重ね、テレビCMのスチール撮影の仕事を依頼してもらえるようになりました。とにかく一所懸命でしたね。

困難な現場を乗り越えて

ーこれまでを振り返ってみて、ターニングポイントとなったお仕事があれば教えてください。

大手飲料メーカーのCMでのスチール撮影ですね。午後2時から昼下りの自然光で撮影する予定でしたが、スケジュールが遅れて夜になってしまって。当初のイメージを変えないよう、限られた機材で昼下がりの光を再現するために頭をひねりました。太陽の入り方を計算して限られた機材で真っ暗な中、昼下がりのダイニングを作りました。頭の中で何度もシミュレーションし、理想通りの光を限られた時間の中で再現。太陽の光はどんな風に人の目に見えているのか、どうすればライトで再現できるのか、とても勉強になった仕事です。

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大手飲料メーカーのCMスチール。日没後にストロボを駆使して日中の光を人工的に作り上げた。

ーいろんな現場を経験して強くなっていくんですね。お仕事はどうやって依頼されることが多いですか?

ホームページからのご連絡、つながりのある人からのご紹介、それと広告代理店からのご依頼が多いですかね。三宮の時計宝飾店『カミネ』の社長には独立前からお世話になっていて、高級腕時計の物撮りやパンフレットの制作、100周年の際にはブランドイメージの構築などの仕事をさせていただきました。

ー時計の物撮りは考えることが多くて大変そうですが、撮るうえで特に大切にしていることはありますか?

針をいかに美しく見せるか、ですね。基本的には写り込みを避けるために囲いに入れて、針が一番美しく見える「午前10時10分」に針が来るようにゼンマイを巻いて待ちます。大変高額な時計を撮影した時は、さすがに触るのがこわいのでお店の方にお願いしました(笑)。スイスのロジェ・デュブイという腕時計の撮影では、建築的なデザインの印象があったのでヨーロッパの石畳のように見えるミラーボールを背景に使ってみたことも。クライアントのビジュアルに対するイメージを事前に共有し、仕上げのテイストを思い浮かべながら撮影して、なるべくレタッチを入れなくても完成するように撮影します。レタッチはゴールに向けて完成させるための最後の手段になりますが、完成イメージを頭の中で正確にイメージして追い込む感じで行なっています。

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カミネからの依頼で制作したロジェ・デュブイのイメージ広告。撮影・デザインを担当した。

ー広告代理店からの依頼では、どのようなお仕事がありましたか。

最近特に力を入れているのが加西市に本社がある、暖房器具・調理器具が有名なセンゴクアラジンというメーカーの仕事です。ストーブが有名なメーカーですが、近年リリースされたトースターやグリルパンなどの新商品を撮影しています。ほかには、初めにお話した神戸市の観光ポスターなど。これからも神戸や兵庫県の仕事はぜひやっていきたいです。

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「グラファイト グリル&トースター」ビジュアル(アラジン)。ホームページやパンフレットに使用するために撮影。

撮影スタイルに合った機材

ー好んで使っている機材はありますか?

仕事では「Canon EOS 5Ds R」で、プライベートでは「FUJIFILM X-Pro2」かな。レンジファインダーカメラ(距離測定に連動して撮影用レンズの焦点を合わせられるカメラ)が好きなんです。「PLAUBEL makina67」という中判のカメラがすごく気に入っていて、高くて買えなかった時期は先輩に借りて使っていました。線が細い描写が好きで、レンズは「PLAUBEL makina67」に付いていた「Nikon Nikkor 80mm F2.8」が理想のレンズです。35~40mmくらいのレンズの画角が好みで「FUJIFILM X-Pro2」には「ZEISS」の「Touit32mm F1.8」をつけ、擬似「PLAUBEL makina67」のつもりで街中をスナップしています。少し前には「SONY Cyber-shot DSC-RX1」に付いているSonnar 35mm F2.0が気に入っていて好んで使っている時期がありました。ただ、フルサイズミラーレスの走りのカメラでピントを追いかける速度が遅かったのと撮影スタイルとしてパッと撮ってサッと次の被写体を探したかったので、現在はレンジファインダー式のカメラを使っています。

ー35~40mmのレンズが好きな理由は?

昔は「年齢が焦点距離」ってよく言われていたんですよ。35歳なら35mm、50歳なら50mmを使うといいと言われていたと聞きました。おそらく見やすい視野のことだと思います。35mm辺りの焦点距離は自分が実際に観ている視野角に近い、というのが理由のひとつです。仕事では当然全てに対応しないといけないので24〜200mmあたりを使うことが多いですし、どのレンズどの画角でも美しく表現できる術はあります。日常で出会った光景を撮るスナップ写真のスタイルは20年ほど前から変わらず自分のなかにあって、そのスタイルに合うのが35mm。F値(光を取り込む穴の大きさを数値化したもの)を9〜11くらいにして、5m先にピントを置いてシャッターを切る。パンフォーカスにすることで、ピント合わせにかかる時間を無くし、ただ逃げていく景色をサッとカメラで捉えるスタイルで撮影してます。

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仕事でイタリアに行った折にLeica M8でバルの美しい光景を切り取った。

ーカメラマンとして、影響を受けた人はいますか?

写真家のアーネスト・サトウという方がいろいろな意味ですごくて。あまり日の目を見なかった方ですが、考えに考え抜いた写真を撮るんですよ。フィルム現像の研究を長く続けていて、彼の考えによると暗室は暗くなくていいんです。その考え方だけでショックを受けました。オレンジ色の薄暗い室内で現像するのが一般的ですけど、彼は写真に影響しない程度の明るさを調べて現像していました。見にくい状態で現像するのと見えている状態で現像するのでは出来上がりが全然違います。また構図など撮影技術も研究して後世に残していたりと、純粋に彼の探究心を尊敬しています。カメラマンとしての存在感をアピールせずに観察者として現場にいるような写真が好きで、自分もそんな写真が撮れるように心がけています。

あきらめずに続けること

ービジュアル制作の仕事を通して社会に貢献されています。西山さんにはどうしてその役割を担えたのでしょう?

僕は一所懸命にやることしかできなくて、そうしていたらここにたどり着いた。まわりの希望に応えられる方法が、たまたま写真やデザインの仕事だったんです。強い思いでカメラマンになりたかったわけではありません。だけど、よろこんでもらえたらうれしいし、それが達成感にもなるじゃないですか。僕はそこまでセンスがよいとも思ってないし、飛び抜けた才能があるとも思っていない。それでもコツコツ続けていけば、必ず技術は身につくものです。センスがなければカメラマンになれないっていうのは、ウソだと思うんですよ。そう言われてあきらめる人は、数をやっていないだけ。基本の型をしっかり覚えて千本ノックみたいに数をこなせば、プロと呼ばれる写真を撮る嗅覚も身に付いてカメラマンになれるはずです。

ー継続は力なり、ですね。ほかの職種にも通じる話のように感じました。これから取り組みたいことはありますか?

写真のスクールを開く予定で準備しています。今はコストの関係でアシスタントを撮影現場に連れていけない話もよく聞きますし、下の世代を育てる立場としては反省するところがあって……。叔父や先輩が現場で悪戦苦闘する姿を見て学ぶことが多かったし、誰かが撮った写真を眺めるだけでは身に付かないと思います。だから、自分が現場で得た、夜中に昼下がりの光を作るような経験や知識を誰かに伝えていくことに力を入れていくことにしました。そのキッカケは、コロナウイルスの影響で内定取り消しになり希望していた会社で働けなくなった友人の娘さんです。少し前から彼女を現場に連れていくようになりました。彼女の中には仕事として「カメラマンやスタイリストになる」などのイメージは無く、自分には関係ない世界だと思っていたようです。正直、プロと呼ばれるカメラマンになることもスタイリストになることも難しいと思います。でもイメージをしていろんな世界を見て経験を増やせば、将来の選択の幅が広がると思うんです。「何になりたいか決めるのは、それからでもいいのでは」と彼女に話してカメラの使い方を指導していたら、人に教えられることがもっとあると思えてきたんです。本気でやれば誰でもできるということを、授業をとおして証明していきたいです。

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ー最後に、神戸のオススメの場所を教えてください。

すごく好きなのが、北野の中山手通にある「焼肉ぜん」。基本的にお任せで提供してもらいます。ここがむちゃくちゃうまい。雌牛にこだわって提供する店主は若いのですが、ちゃんと人を見て的確なお肉を提供してくれます。量もちょうどよくて、少し胃が持たれている時でも気にせず完食できます。「中華とお酒 Marman」も大好きでよく通っています。BARならJR三宮駅近くの「bar&coffee ロゼパピヨン」は何を頼んでも抜群においしくてオススメです。



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