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行政のデザイン仕事を「楽しく」やる必勝法!?ーデザインヒーロー 和田武大

彼を知る人の間では、「ヒーロー」ともあだ名される和田武大さん。あるイベントの準備を参加者だった和田さんがさり気なく手伝ったときに、「困ったときに現れる、ヒーローみたいですね」と言われたことが、屋号のきっかけになっているそう。
「自分でヒーローを名乗るのってハードルあるので、すごく迷いましたけどね」と笑う和田さんですが、その日々の活動を聞いていけば、ほんとにヒーロー!?と思わされる瞬間がいくども。
デザイナーがいかにヒーローでいられるのか、そんな話をどうぞ。

神戸市のデザインをめっちゃ手がけてる人、という噂

―デザインにもいろんな仕事がありますけど、和田さんにとって大きな柱は何でしょう。

和田:行政やNPO、福祉や防災関係の相談ごとは多いですね。

―昨年度、神戸市の案件をいちばん手がけた人じゃないかという噂も聞きましたよ。

和田:そうなんですか(笑)。神戸市の案件ってめちゃくちゃたくさんありますし、声をかけられても見積もり合わせで負けることが多々あったので、実際のところはわかりませんけど。

―行政関係のデザインをはじめたキッカケってどこからでしょう。

和田:神戸市がデザイン都市認定を受けた頃に、たくさん神戸市の公募案件が発生したときがあって。

―デザイン都市の認定は2008年ですね。

和田:はい、その頃です。ちょうど須磨海岸の迷惑防止条例が制定されて、そのPRのデザインを指名コンペで受けたんですよ。どんちゃん騒ぎはダメ、花火はダメ、みたいなことなんですけど、禁止事項ばっかりのポスターが街にあるのはイヤやなと思って、あえてポジティブなビジュアルにして、禁止事項は下に小さく入れるデザインにしたんですね。

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―それが初の行政仕事。

和田:そうです。そしたら、そのポスターが部署を越えて少し広まって。「あれ、つくったの誰?」みたいな形で。

―禁止ポスターというお題をポジティブに変換したのがよかったんですね、きっと。

和田:だと思います。それ以降もそういうことはすごく多いですよ。役所から提供された言葉ではまったく市民に伝わらない感じがするので、こっちでキャッチコピーを考えてみたり、市民参加を促すチラシなのにその参加の流れがよくわからないので、手順図をつくって入れたり。

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缶バッチとガチャガチャマシーン

―和田さんなりの仕事のスタイルって、たとえばどんなやり方でしょう。

和田:僕を紹介してもらうときは、「できごと系だったら和田くんがいいんじゃない?」って言われて訪ねてこられることが多いですね。

―できごと系というと?

和田:なんだろう、自分では「汗をかくデザイナー」って言ってたりもします。たとえば、チラシやポスターをつくる案件でも、それを配布先に郵送する際につける送付書もちょっとデザインして、手紙っぽく仕上げるだけでも、受け取った人の気持ちが違ってくると思うので、頼まれてないところまでデザインしてしまう。

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―送付書のことなんて必ずやらなければいけないことではない、いってみれば仕事じゃない部分も動いてると。

和田:そうですね。大枠の予算で動いてる場合は、予算内で封筒をデザインするところまでやってみたりとか。いろいろ小道具も使っていて、よくやるのでいえば缶バッチ。缶バッチをめっちゃつくります。

―オリジナルの缶バッチをつくる?

和田:そうです。たとえば、ロゴを提案するプレゼンの時に、先にそのロゴを缶バッチにして、こっそり洋服につけておいて、プレゼンの流れのなかで「たとえば、こうやってみなさんで服につけて広めたりできますよね」と披露する(笑)。

―上手ですね(笑)。

和田:で、「みなさんの分もつくってきたのでどうぞ」って(笑)。そんなことをやっても缶バッチの制作費が予算に追加されたりはしないけど、一緒に仕事をするメンバーのテンションが上がってやりやすくなるんだったら、そこは惜しみなく汗をかきます。

―プレゼン上手というよりも、スムーズに進めるためですね。

和田:デザインに関係する環境を動かしてるところはあると思います。これだって、担当者に「いや、そんなんいりませんよ」って言われたら、ちょっと気持ちもヘコむけど、そこから話がふくらめば楽しくなって、またどんどん仕掛けて(笑)。

―きっと自分自身のエンジンにもなってるんですね。

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和田:ガチャガチャのマシーンも持ってます、缶バッチをカプセルに入れて使えるので。

―事務所に今ありますか。

和田:テレワーク期間中なので、いまは自宅に。

―家で遊んでる?

和田:いえ、いま住んでるエリアに子どもが多いので、おやつの時間とかに公園にマシーンをかついでいくんです。あとは、子どもたちに絵を描いてきてもらって、それを缶バッチを自分でつくることを体験してもらったり。

―地域でのプロジェクトとかでもなく。

和田:完全にプライベートなやつです。毎朝、家の玄関ポストにクイズの問題を貼り出して、クイズラリーみたいに、それでガチャガチャを回せるというのもやってた時期があって、その頃は、うちの前で近所の男の子が朝からじっと待ってました(笑)。

―近所の子どもたちにはどういう存在なんでしょう。「和田くんのお父さん」という感じ?

和田:うちの子がまだ年長で、そのお父さんでもあるけど、たぶん「和田さん」として認識してくれてるかな。

―近所のおっちゃん。

和田:そう、僕の夢が「近所のおもろいおっちゃん」なんですよ。「親には言えないけど、初恋の相談ができる人」みたいになれたらなって。

―どこかヒーローにも通じますね。

和田:そうかも。ヒーローといっても正義の味方ではなくて、いつの時代にもヒーローはいるんです。僕にとっては、うちの親父だってヒーローであったり。自分もそういう存在になりたいですね。

KIITOのゼミで見つけた自分の好きなこと

和田さんは専門学校を卒業後、デザイン会社を2社渡り歩いた後にグラフィックデザイナーとして独立。その後、KIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)で開かれている数々の「+クリエイティブゼミ」に積極的に参加するうちに、グラフィックデザインの可能性に気づいた。

―KIITOでのゼミ体験を通して、和田さんの中でいろんなことが変化していった。

和田:最初はまったく自分ごとではなかったんですけど、気づけば、無意識に、ですね。

―KIITOのゼミは、さまざまな社会的課題にどう取り組むかというものが多く開かれています。

和田:単純に関わっていて楽しいという気持ちもありましたし、関わるうちに自分がデザイナーを志したベースの部分にも気づきました。

―どんなことでしょう。

和田:子どもの頃から友達の誕生日を祝うとか、彼女にプレゼントを渡すとか、コトをつくるのが大好きだったんです。なんとなく絵を描くのが好きだからデザイナーになったと思いこんでたいけど、そうじゃなかった。僕が学生だった頃は、佐藤可士和さんのSMAPのビジュアルみたいな誰もが知る大きな仕事に憧れてたけど、もっと身近で商店街の仕事をしたい、そんな価値観に変わってきた。

―かなり大きな変化ですね。

和田:そうです。半径数百メートル、数キロの世界を意識するようになりました。それが27−8歳の頃だと思います。

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2016年からはKIITO内に事務所を構えている。

―KIITOのゼミ、そんなに面白いものでしたか。

和田:かなり時間はとられるけど、それ以上の価値が僕にはありました。それに、ゼミにクリエイターが交じっている方が、企画や最後のプレゼンが強度のあるものになるんですよ。社会課題を議論をしていると、どうしても真面目な方向にばかり進んでいくから。

―正しい答えを追求するのが第一になりそうですね。そこにクリエイター、デザイナーが入る意味があったと。

和田:そうなんです。ちょっとした雑談を交えることもそうだし、ファシリテーターとは名乗らずとも、議論の場でのふるまいひとつでアイデアの精度も変わってくると思うから。

―ディスカッションのデザインだ。

和田:自分にとっては、ゼミに参加することでそのテーマになっていることを調べたり、日頃のアンテナを張ってメンバーと共有したりってこともやれる。日頃なんとなく気になっている課題でも、ひとりだとそんなに向き合う時間が取れないので。

―KIITOのゼミが自分の動機になるんですね。

和田:はい。これまで30以上のゼミが開かれてきたと思うけど、僕はたぶん、半分は参加してると思います。

―KIITOゼミのベテラン(笑)。

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楽しくしてること

―いろんな得意があるデザイナ―という中でいえば、和田さんの得意はあらためて何でしょう。

和田:うまく言葉にできてないけど、楽しくしてることかなと思います。関わる人たちのモチベーションを上げたり、担当者のテンションを上げたり…別の言葉で表現できればいいけど、うん、楽しくとしか言えない(笑)。

―アウトプットよりも過程の部分ですね。

和田:先日も地域活動のロゴをつくるという仕事のなかで、「じゃあ、地域の方を巻きこんでロゴをつくるワークショップしましょうよ」と提案して、みんなのアイデアをもとにブラッシュアップしていったものを納品しました。

―淡々と事務所でロゴをデザインして提案するだけに比べると、かなり手数がかかってます。

和田:そうですね。このやり方をよく思わない人もいると思いますけど、僕としては、よくわからないデザイナーがポンとつくったロゴが上から降ってくるよりも、誰か身近な人が関わって一緒につくったものというストーリーがあった方がいいなと思うんです。

―よく思わない人っていうのは、アウトプットがゆるくなるんじゃないかという懸念ですよね、きっと。

和田:だと思いますけど、関わる人を増やして巻きこんでいくことで、そのロゴが使われる後のことも思えば、最終的にはデザインが死なない、生きてくると思ってます。

―ありがとうございます。最後に仕事道具を拝見させてください。

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文房具やガジェットがたくさん。ワークショップの機会も多いので、マスキングテープは必需品。和田さんのキーカラーは黄色で固定されているが、スタッフの色はその人ごとに決定され、スタッフの堀さんは緑。なお、名刺に使っているのは、きらめく粒子がちりばめられたドイツ・グムンド社の紙「リアクション」のスパークリングレモン。小口部分は自ら蛍光ペンで塗っている。


”近所のおもろいおっちゃん”としての活動や、デザイナーとして参加されている「ちびっこうべ」についてなど、和田さんの魅力が詰まったインタビュー全文記事はこちらから